いつか羽化する、その日まで
〝あの〟村山さんが落ち込んでいるその姿は、私の目には衝撃的に映った。今までたくさんからかわれたり、ちょっかい出されたりあったけれど。根はこんなにもーー。
「村山さんて、優しいんですね」
「え」
嬉しくなって思わず漏らすと、弾かれたように顔が上がる。目があっても、もう気まずいだなんて思わなかった。
「実は私、小林さんに彼女がいるかもって、なんとなく気付いていたんですよ?」
小林さんと一緒に外出した時に見たペンギンのキーホルダーは、やはり彼女からもらったものなのだろう。そうでなければ、話題にしただけであんなに動揺する理由がない。
面倒見のよい彼に勝手に憧れて、とても短かったけれど片思い風の日々を過ごせたことは楽しかった。
「でも、やっぱり。真実を知るには心の準備が必要ですね。……ちょっとガタガタになっちゃいました」
結果として動揺で仕事が手につかなくなってしまったことは、大いに反省しなければならない。社会人になれば、自分の感情だけで動くことは許されないからだ。
小林さんだって、目の前に座る村山さんだって、今までどれくらい自分を殺してきたのだろう。
その時、私たちの席にデザートが運ばれてきた。たまごの城名物の焼きプリンと、柔らかそうなシフォンケーキ。白くてかわいらしい陶器のお皿に仲良く並んでいて、見るだけでもテンションが上がってしまう。
「美味しそうですよ! 食べましょう」
「うん」
村山さんはそれ以上何も言わなかった。
自分に都合のよい考えだけれど、私がこうして乗り越えていくのを見守ってくれているような安心感がある。器用そうに見えてとても不器用な優しさだ。
「……ねえ、ケーキ半分こしよっか?」
「けっ、結構です!」
これも不器用な優しさ、のはず……。