いつか羽化する、その日まで
たった少しの間だったが、会議室の準備をしているうちに村山さんは外へ出かけてしまったらしい。もぬけの殻となってしまった隣の席をちらりと見やって、私は思わず安堵の息を吐いた。
今日で十三日だ。三週間のインターンがもうすぐ終わる。来週からはまた元の学生へと戻り、これまで通り授業や就活に精を出すことになるのだ。
正直、不安しかない。
インターンを経験したからといって、他の学生より何かが抜きんでるということはまずないからだ。あくまで、経験値が増えただけ。
それに、私以上の経験をしている人は世の中に数え切れないほどいるはずなのだ。
営業所では有利なエントリーシートの書き方を習った訳でも、絶対に受かる面接の練習をした訳でもない。私は日々行われている業務の、ほんの一瞬を覗き見たに過ぎない。
それでも、私は心の底から満たされていた。
ーーこんなに目まぐるしく過ぎていく三週間は、人生で初めてだったかも。
私でもできる簡単な仕事をわざわざ用意してくれたことに感謝しながら、作業を再開する。
不思議と村山さんがいない時間は集中できて、とても捗った。
・・・・・
「あれー? 何故かものすごく進んでる」
外から戻ってきた村山さんが開口一番にそんなことを言ったものだから、私はまた石化したように動けなくなってしまった。後ろから覗き込まれているようで、一気に画面が暗くなる。背後にほんのりと感じる温かさは、人の気配があるときに感じるそれだ。
ーーそんな大きな声で指摘しないで欲しい!
……そして、そんなに近寄らないで欲しい。
「ふー、日中はまだ辛いね」
私の願いが通じたのか、村山さんはすぐに自席へと戻った。パソコンの電源ボタンを押したのか、微かに機械音が聞こえる。