いつか羽化する、その日まで
この短期間で知った村山さんのすべてを思い浮かべながら洗い物を続けていたせいだろうか。
「ーーサナギちゃん」
「わっ! な、何ですか?!」
その村山さん本人がひょっこり現れて、私は危うくカップを落としそうになってしまった。慌てて持ち直すと、ほっと安堵の息を吐く。
「手伝うよ」
「えっ?! いえ、いいです! あとこれだけなので!」
この狭い空間で村山さんと二人きりになるには、心の準備が全然足りない。何せ、今の今まで思っていた相手だ。
両手がふさがっているため、ぶんぶんと首を横に振り意思表示をする私を見た村山さんは、大げさにため息を吐いた。
「相変わらずだなあ、サナギちゃんは。僕に対してもう少し思いやりを持ってくれてもいいんじゃない?」
「持ってます! 持ってますから!」
それ以上近付かないでください! という心の声はかろうじて飲み込んだ。勝手に意識してひとりで恥ずかしがっていることが知られたら、どうなってしまうか分かったものではない。
そんな私の気も知らず、ずいっと一歩踏み出してきた村山さんは、私の隣までやってくると。
「ーー今日どうしたの? 本当は調子悪い?」
不意に、真面目な声に変わった。