いつか羽化する、その日まで
ラーメン屋は相変わらず繁盛していた。前回同様少し待つことになり、入り口近くの椅子に座って順番を待つ。
「小林さんと村山さんって、いつから営業所にいるんですか?」
先ほどのやり取りもそうだが、気心が知れすぎている二人の応酬はとても興味深い。手持ち無沙汰な時間を利用して、尋ねてみることにした。
「俺が配属されてすぐ新人研修が終わった村山も赴任してきたから……四年は経つよな?」
「そうですね」
「へえ! もしかして一緒に遊ぶこともあるんですか?」
「最初の頃は結構出かけたかな。それこそ、お互いの実家とか」
「え、実家?!」
「そうそう。小林さんのお母さんお手製のお菓子、懐かしいなあ」
笑った村山さんの目尻に皺が寄る。単なる思い付きだったのかもしれないが、実家に招待したこともあるとは驚きだ。やはり二人の間には、言葉では表すことができない深い絆があるらしい。
「じゃ、じゃあ。村山さんのお家はどうだったんですか?」
それとなく村山さんの情報を聞き出そうと、自然な流れを装って小林さんへ聞いた。少し声が上擦ってしまったが、幸い気付かれてはいないようで安心する。
「村山の家は……星が綺麗だった、かな」
「星……?」
小林さんの、歯に物が挟まったような、やけに遠回しな言い方が気になっていると、村山さんがぽつりと呟いた。
「僕の出身、笹井町ってとこなんだけど」
「笹井町って……結構な山奥じゃないですか!」