いつか羽化する、その日まで
同じ地方と言っても、行ったことのない場所や、名前くらいしか知らない場所のひとつやふたつあるものだ。まさに村山さんの出身地がそれにあたり、地元のテレビ番組や行ったことのある人の話などからなかなかの田舎町だったと認識している。
思わず外へ飛び出した私の心の声を聞いて、コップの水を飲んでいた小林さんがむせる。
「た、立川さん、結構言うね」
「はっ……ごめんなさい!」
ついうっかり正直な感想を述べてしまった! 慌てて謝ったが、村山さんはまるで気にしていないといった様子で微笑んだ。
「大丈夫ですよ、いつものことですから」
「……いつも、ね」
「あっ、えっと……!」
村山さんの余裕たっぷりな言い方に恥ずかしくなった私は、何か言いたげな小林さんの言葉を遮った。
「この前すぐに〝夏の大三角〟を見つけていたのは、そういうことだったんですね」
「知らないうちに生活に根付いているみたいで、つい探しちゃうんだよね」
きっと、夜空を身近に感じられる環境で育ったに違いない。満天の星空を眺めている少年だった頃の村山さんを想像して、自分の世界に入っていた私は少しにやけてしまった。
だから、反応が遅れてしまった。
「ーー今度、見に来る?」
「え」
顔を上げると、まっすぐ向けられた視線に射抜かれたように動けなくなった。さっきまであんなにふざけていた彼なのに、今の表情からは、情けないことに本気なのか冗談なのか見抜けない。
ーーいや、見抜きたくなかったのかもしれない。
「お待たせしました、三名様テーブル席へどうぞー!」
「席、空いたみたいだな」
こんな時でも何も言わずに進めてくれる小林さんの存在が、本当にありがたかった。