いつか羽化する、その日まで
手元の伝票にさらさらっと書き込むと、店員さんは厨房の方へ向かっていった。やっと我に返った村山さんが声を上げる。
「ちょ、ちょっとサナギちゃん! 勝手に注文決めないでよ」
「だって村山さん、言ってたじゃないですか。〝社会人になったら色んな場面で決断を迫られるから、ラーメンくらい即決できるようにならないと〟って」
「村山……」
「ひっ、小林さんにらまないでくださいよ! ーーサナギちゃん、僕たまには担々麺以外のラーメンを食べたいんだけど!」
「あれ? 村山さんて担々麺がお好きなのかと思ってました」
「好きだけど! 限度ってものがあるでしょ!」
わざとらしくとぼけると、村山さんは珍しく焦ったように突っかかってくる。こうしてまた彼の新しい一面を見ることができて、私の胸はいっぱいだ。
ぎゃあぎゃあと賑やかな昼休みは、その時間を惜しむように緩やかに過ぎていく。
ーーいつか、思い出してもらえるだろうか。
ふとした瞬間に〝こんなこともあったな〟と懐かしんでもらえるなら、こんなに嬉しいことはない。
大量の汗をかきながら三人お揃いで食べた担々麺の味は、忘れることなどできないだろう。