番犬男子








目尻に、涙がたまる。


“あの日”の夢がぼやけて、だんだんと意識が戻ってくる。




「ん……」



うっすら瞼を持ち上げると、みぞおちに残っている痛みが急に姿を現した。



いった……っ。


そういえば、あのバイク男に殴られたんだっけ。




みぞおちをさすろうとしたら、腕が動かせなかった。


後ろで縛られているんだ。


手首にロープが巻きつけられた違和感はあるけれど、足にはない。


どうやら足は拘束しなかったようだ。





涙の膜が張った視界を細めて、念のためまだ眠っていることを装いながら、あたしが今いる現在地を確認した。




ここにいるのは、あたし1人。



足に直接冷たさが伝わる、コンクリート。



窓はなく、薄暗い。


唯一、光が差し込むのは、中途半端に半分ほど開かれている、前方のシャッターのみ。



後ろのほうにダンボールかは定かではないが、それっぽい箱が山積みにされてある。


他にも鉄パイプや木材、あたしの手首を縛っている物と同じと思われるロープもある。




< 153 / 613 >

この作品をシェア

pagetop