番犬男子
幸汰がバイク男のほうに体を向けた。
すると、バイク男は、幸汰が番犬だと知りなおさら怖気づき、唯一の逃げ道があるあたしのいる方向に走り出した。
番犬より弱い女子のほうが勝機があると踏んだ、というわけではないらしい。
ただただこの場から離れたくて、無我夢中に逃げている様子だった。
「千果さんっ!」
そんなバイク男の様子に気づいていない幸汰が、あたしの名前を叫ぶ。
あたしを味方と思ってないくせに、心配はするんだから、よくわからないやつだ。
裏で潰す始末屋だか、侍に従順な犬だか知らないけどね。
「あたしをなめないでよね!」
お兄ちゃんと同じ血が流れてるこのあたしが、バイク男なんかに負けるとでも?
冗談はやめて。
守られるお姫さまになるつもりは、1ミリだってないの。
こういう時の対処法も知識として脳内に入っているのに、実践で応用できないはずないでしょ。
誘拐された時は、突然のことに思考が停止してただけで、いつもならあんな失態しない。