番犬男子
「それにしても」
「ん?」
あたしの呟きを合図に、お互いの視線がかち合う。
「やっぱり、あんたが番犬だったんだね」
お兄ちゃんと再会した日から、番犬の正体は見当がついていた。
でも、普段のなよなよした幸汰と噂の凶悪な番犬は、印象が大きくかけ離れていて、信じられなかった。
今日、目の当たりにするまでは。
「……ふーん。『やっぱり』ってことは、前から気づいてたんだ」
「あれだけ四六時中睨まれれば、嫌でも気づく」
「そう?気づかねぇやつはとことん気づかねぇよ?」
っていうことは、今まで気づかない人がいたわけね。
あたしはため息をついて、瞼を伏せた。
あたしがお兄ちゃんの妹だと明かした瞬間、幸汰の目つきが鋭く変わったのをよく覚えてる。
それからというもの、幸汰は、公園で見定めた時も、洋館にお邪魔している時も、あたしを監視するみたいに睨んでいた。
幸汰が番犬だとわかったのも、それがきっかけ。
他にもあたしを怪しんでる人はたくさんいたけれど、幸汰の警戒心はいつ何時も解かれることはなかった。
その姿はまさに、主人に忠義を誓い、主人以外は全員敵とみなして牙を剥く、番犬そのものだった。