番犬男子
脅しかどうかは別にしても。
幸汰って、いくら番犬だって呼ばれてるとはいえ、こんなことするキャラだった?
さっき洋館で、お兄ちゃんの言葉から真の目的を汲み取ってたから、二重人格じゃないとは思うんだけど……。
「二重人格とかじゃないよね?」
「違ぇよ?」
「だよね」
動揺を隠しつつ聞いてみたら、普通に否定されて、普通に返した。
表は、気弱そうな優しい男子。
本人自覚済みの裏は、怒らせると怖い野獣な男子。
表だけを知っている人は、誰も彼が番犬だとは思わないだろうな。
黙って観察していると、幸汰が口を開いた。
「“番犬”を詮索すんのは勝手だけどさー」
睨みを利かせる尖った瞳。
軽く持ち上がった口角。
幸汰の表情全てが、殺気を纏っていて、ぞっとするくらい冷徹だった。
「総長を……双雷を壊そうとしたら、お前も容赦しねぇよ?」
あたしの心臓が、みっともなく震える。
それと同時に、なぜか、ただひらすらに苛立ちが募った。
芽生えた敵対心で、あたしも幸汰を睨みつけた。
あ、こいつ、苦手だ。