番犬男子
悪いことが大好きな魁皇の下っ端にとって、裏切りなど、躊躇なく実行できる行為だった。
罪悪感はもちろん、裏切った仲間を憐れむ思いも皆無。
心内に在るのは、利用できるものは利用して生き残る、貪欲さとしぶとさと。
それから、ちょっとの屈辱と。
自分を嘲った双雷やあたしへの、醜い復讐心。
強盗犯は、下っ端の仲間数人に支えられながら、なんとか警察が来る前に路地裏を離れ、闇夜に紛れた路地を歩いていた。
気を抜けばすぐにでも手放してしまいそうな意識の中で、ずっと番犬の言葉が反すうしていた。
『また何かしたら容赦しねぇよ?』
あれはつまり、さっきのむごい仕打ちは、容赦しなかった結果ではなかったということ。
手加減されたのだ。
強盗犯にはそうは思えないほど、生かさず殺さずの状態でなお苦しく虐げられたが……。
力の差を見せつけられ、完敗した。
そのことが気に食わなかったのだろう。
強盗犯は悔しさをにじませながら、ギリ、と奥歯を噛んだ。
「『容赦しねぇ』はこっちのセリフだ。次こそ、双雷を潰してやる……!」
細い路地をおぼつかない足で歩く強盗犯が、滑稽【コッケイ】なピエロのように報復を企んでいるなんて。
洋館への道をたどっているあたしも幸汰も、双雷も、今はまだ知る由はない。