番犬男子
「“僕”なんかより、生徒会長にふさわしい人がいると思ったので」
雪乃は謙虚に、優しく目を細めた。
口調や一人称が普段と違うことはともかく。
雪乃が自分を卑下するなんて、珍しい。
人なら誰しも「自分なんか」と自分自身を嘲ってしまう時があるだろうけど、雪乃はあまり人前で卑屈にならない。
どちらかと言えば、慰める側だ。
だけど。
あたしの視界に映る雪乃は、とても寂しそうだった。
「宝塚くん。あなたはもっと自分に自信を持ってもいいと思うわよ?」
西篠先生がそう言っても、雪乃はただ儚い笑みを浮かべるだけだった。
一礼して職員室前を去ろうとする雪乃が、こちらのほうに歩いてきた。
やばい、盗み聞きしてたのバレちゃう!
どこかに隠れる場所は……!
「あ」
「……ド、ドウモ」
慌てるが、時すでに遅し。
階段近くで、雪乃があたしに気づいた。