番犬男子
数秒、静寂が続く。
き、気まずい。
視線を逸らしかけたあたしとは対照的に、雪乃はさして動揺していなかった。
「こんにちは、チカちゃん」
営業スマイルで挨拶を返される。
これは……絶対盗み聞きしてたのバレてる。
そりゃ、バカじゃない限り、位置的にバレるよねー。
申し訳なさを感じていたら、周囲がざわつきだした。
「おい、天才留学生と宝塚先輩が話してるぞ!」
「留学生、名前で呼ばれてなかった?」
「親しくなるの早くない!?」
「も、もしかして、宝塚くんの彼女?」
丸聞こえですよ、みなさん。
あと、あたし、雪乃の彼女じゃないです。
「雪乃、すごい人気だね」
「それはチカちゃんのほうだろ?」
「いやいや」
どう考えても、あたしに向けられてるのは、好奇と興味と嫉妬でしょ。
この学校に来た初日から人気者だったら、今頃あたしはクラスメイトに囲まれて、自分の席を離れられなかったでしょうよ。