番犬男子




カラス殺しの男子に引いていた野次馬は、カラス殺しの男子よりはまだ、命の尊さをわかっているんだと思っていた。



でも。


1羽のカラスの命を卑しめる冷笑は、なす術なく、周りに伝染して広がっていく。




そんな野次馬に、隣の遊馬も鬱憤に耐え切れず、表情筋をひくつかせている。



「てめぇら、笑ってんじゃ……!」



怒声が、途切れる。


あたしが野次馬の冷笑を払いながら、遊馬のそばを一歩また一歩離れていったから。



「お、おい、待てよ千」


千果、と遊馬が引き留めかけて、息を呑みこんだ。



見てしまったのだ。


あたしの目尻にあふれんばかりにたまっている、大粒の涙を。




あたしは、苦しげに永遠の眠りについたカラスに近寄り、地面に両膝をついた。


痛々しいカラスの死骸にそっと触れ、膝の上で血まみれの翼を撫でる。




ごめんね。

助けてあげられなくて。


ごめんね。

すぐにあなたの元に行けなくて。




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