番犬男子
相槌を打つしかできない自分が、ひどくもどかしかった。
カラスの死がなく冷静でいられていたなら、何かもっといい言葉を伝えられたのだろうか。
「今思えば、母さんは自分の命がもうすぐ終わることを、悟ってたのかもな」
小さく小さく漏れた、遊馬の独り言。
遊馬はゆっくりと顔を上げて、暗くなってきたオレンジ色の空を眺めた。
「そう言った後すぐ、母さんの病態が急激に悪化してそのまま……」
語尾がだんだんしぼんでいった。
じわり、心臓に悲しみが拡がった。
「最初はすんげぇ泣いたけどさ、母さんの形見のコレを付けて、母さんの分まで俺らしく生きようって誓ったんだ」
遊馬はいつになく凛々しい顔つきで、コレ――赤い宝石が施されたピアスを指先でいじった。
遊馬がいつも楽しそうに笑っている背景には、お母さんの想いがあったんだね。
お母さんの最期の言葉を胸に、遊馬は今までも、これからも生きていく。
かっこいいよ、遊馬。