番犬男子





あたしは先ほどまで隠れていたクレープ屋の大きな看板のそばで、肩を落としてがっかりする。


沈む視界に、いきなりある物が入り込んできた。



「く、クレープ?」



なんで?


視界を上にずらすと、今買ってきたらしいクレープを2つ、右手と左手に持ってる遊馬がいた。



「ん」


「え、くれるの?」



苺と生クリームがいっぱい詰まったクレープを渡され、困惑しながらも受け取る。


甘い匂いに、食欲をそそられる。



「俺のおごり。これでも食べて元気出せよ」


「あたし、食べ物で機嫌が直るほど単純じゃないんですけど」



子ども扱いしないで。


頬を膨らませれば、遊馬は「してねぇよ」と返して、自分の分のクレープを豪快に食べた。




……とはいっても、食べなかったらクレープが無駄になっちゃうもんね。



いただきます、と一口クレープを頬張った。


んっ、美味しい!



「ははっ、結局食うんじゃねぇか。素直じゃねぇな」



ハッとして唇を尖らせたら、遊馬があたしの口の端についてたクリームを親指で拭った。



……やっぱり、子ども扱いしてる。




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