番犬男子
「待ってよ、お兄ちゃん!」
「…………」
「もうちょっと歩くペースを遅くしてもいいんじゃない?」
「無理」
あたしの要求に、お兄ちゃんは必ず沈黙か否定を選ぶ。
心なしか、言い方が刺々しい。
やっぱりお兄ちゃん、怒ってる、よね?
あたしが駄々をこねて無理を言ったから?
そんなに一緒に登校するのが嫌だった?
ズキリ、と胸が軋む。
『……お前のこと、信じてみることにした』
夏休み、お兄ちゃんは少しだけ、あたしを受け入れてくれた。
でも、あれ以来、進展はない。
お兄ちゃんがあたしの記憶を欠片でも思い出すことも、あたしを妹だと完全に認めてくれることもなかった。