番犬男子




足音が徐々に近づいてくる。


あたしの目の前で足音は止まり、ひとつの影があたしにかぶさった。



「どうした?」



お兄ちゃんの憂慮を含んだ声音が、頭上に落とされる。



わざわざ引き返してきて、あたしを心配してくれてる。


そういうところも、ずるいよ。



おかしいよね。

距離が縮まらないのは、お兄ちゃんのせいなのに、その張本人が近づいてくるなんてさ。



お兄ちゃんの知らない、ずるいところも、あたしは好きだよ。




「お兄ちゃん」


緩やかに、視線を上げていく。



ねぇ、あたしも、ずるくなってもいい?




「お兄ちゃんは、あたしのこと、嫌い?」




お兄ちゃんと真っ直ぐ目を合わせる。


あたしは決して目を逸らさなかった。



逸らしたら、お兄ちゃんの本心を聞けなくなるような気がして。



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