番犬男子
「だ、だって、あの場にいたのに僕は助けることができなかったんだよ?」
「だからって、なんであたしが幸汰を責めなくちゃいけないの?」
不良に絡まれてた女子が、近くにいたのに助けてくれない幸汰を責めるのはわかる。
だけど、そもそもその場に立ち会うどころか、全く知らずにアメリカで勉学に励んでたあたしが、幸汰を責められるわけないじゃん。
「確かに、その時の幸汰の行動……といっても硬直してただけだけど、それは褒められたものじゃない。でもね、怒られるものでもないんだよ」
お兄ちゃんがその女子を助けられたのは、抜きん出た強さがあったから。
お兄ちゃんに比べたら赤子同然の一般人の実力じゃあ、1人で突っ込んで行ったとしても、助けられたかどうかは微妙だ。
「もし幸汰が動いたとしても、その不良相手に勝ち目がなかったら、ただ被害を大きくしただけだったと思うよ」
幸汰は『何もできなかった』って反省してるけど、何もしなかったから被害は最小限に収まった。
まあ、これはポジティブに捉えた見解だ。
それでも、幸汰にできた最善の行動がある。
それは、即座に警察に連絡することだ。
自分には助けられない、何もできない、そう理解したのなら、頼れる人に任せればいい。
結果としては、最善の行動をしてもしてなくても、お兄ちゃんの登場で助かったんだけれど。