番犬男子




傷つけた側のあたしが、泣くのは、おかしい。


いつだってあたしは、お兄ちゃんを傷つけてしまっていたのに。




『ごめん……っ』


あの傷痕のせいでさらにお兄ちゃんを孤独に追い詰めた、未熟なあたしの罪意識が、鮮明に廻って。




どうしようもなく、泣きそうになる。




幸汰は決してこちらに振り向かない。


それがとても安心できて。



ポロッ、と涙がこぼれ落ちた。



「……ふ、……っ」



ひとつ、またひとつ、涙が頬を濡らしていく。


声には出さないように、嗚咽まじりに泣くあたしを、幸汰はどう思ってるんだろう。



無言を貫いて、あたしの手を弱い力で握り締められる。


どちらの鼓動か判断つかない心地よい音が、耳の奥で響いていた。



幸汰の手のひらから伝わる温もりが、より涙腺を決壊させた。




幸汰の大きく見える背中についていきながら、力の入らない足で階段を駆け下りる。


幸汰が豪華に装飾された扉を開けて外へ出ると、ようやく幸汰の足が止まり、続けてあたしも拙く立ち止まった。



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