番犬男子
ビクリと揺れた、ややつり目がちなライトブラウンの瞳に、頼りなげな僕がぼやけて映る。
「どうして……」
千果さんの呟きの先は、いつまで経っても言葉にはならなかった。
言わなくても、わかった。
けど、わからなかった。
なぜ僕は、千果さんとここにいるんだろう。
総長の額の傷痕は、千果さんが負わせた、と告白していた。
番犬である僕なら、怒鳴り散らしはせずとも、より一層警戒を強めて、敵認識を色濃くしていたはずなのに。
……なのに、なぜ。
千果さんを連れ出した理由なんか、僕自身にも見つけられなかった。
千果さんがリンチされていたあの日と、同じ。
体が勝手に動いて、千果さんの手を取っていた。
千果さんの今にも泣き出しそうな表情に、「ここにいちゃダメだ」と思ったんだ。
なぜだろう。
その問いに、うまく答えられない自分が確かにいた。