番犬男子




落ち着いた体【テイ】を繕って、いやに重い瞼を持ち上げた。


鋭く尖った“番犬”の双眼で、とうに泣き止んでいる千果さんを射抜いた。



「また総長を傷つけたら、絶対許さねぇから」



異様に、心臓がざわついた。


これは、迷い?

迷いなんか、要らない。



僕は、総長……侍に付き従う、始末屋の番犬。


侍や双雷に危害を及ぼす可能性のあるやつには、容赦しない。



これで、いいんだ。




ドク、ドク、ドク。

軋みながら激しく鼓動して、呼吸もままならなかった。



千果さんは泣き腫らした目元を切なそうに垂れ下げて、少し俯いた。


数秒黙り込み、おぼろげに顔を上げて僕を捉える。



「……うん」



たった一言、苦しそうに曖昧な微笑みを作って、消え入りそうな声で返事をした。



< 421 / 613 >

この作品をシェア

pagetop