番犬男子
落ち着いた体【テイ】を繕って、いやに重い瞼を持ち上げた。
鋭く尖った“番犬”の双眼で、とうに泣き止んでいる千果さんを射抜いた。
「また総長を傷つけたら、絶対許さねぇから」
異様に、心臓がざわついた。
これは、迷い?
迷いなんか、要らない。
僕は、総長……侍に付き従う、始末屋の番犬。
侍や双雷に危害を及ぼす可能性のあるやつには、容赦しない。
これで、いいんだ。
ドク、ドク、ドク。
軋みながら激しく鼓動して、呼吸もままならなかった。
千果さんは泣き腫らした目元を切なそうに垂れ下げて、少し俯いた。
数秒黙り込み、おぼろげに顔を上げて僕を捉える。
「……うん」
たった一言、苦しそうに曖昧な微笑みを作って、消え入りそうな声で返事をした。