番犬男子
憧れにこだわる番犬から、素の僕に一瞬で引き戻された。
『ありがとう』と言うより、笑ってほしかった。
でも、そうじゃない。
そうじゃないんだ。
総長を『お兄ちゃん、かっこいい!!』と褒めちぎってはしゃぐ時のような、幸せいっぱいの笑顔を見せてよ。
そんな、ボロボロに壊れかけた表情をしないで。
無邪気に笑ってほしい。
千果さんがもう苦しまないように、守りたい。
あぁ、そうか。
やっと、たったひとつだけだけど、わかった。
僕は、千果さんのこと――。
ストンと降りてきた想いに免じて、秘密を隠してるような千果さんに、僕は騙されたフリをして微笑み返した。
あ、しまった。
手ぇ握ったままでいればよかった。
そしたら、どうして千果さんが泣いたのか、千果さんと総長の過去に一体何があったのか知らなくても、温度を通して千果さんの震えを止められたのに。
再び握る勇気のない、ヘタレで空っぽな自分の手のひらがもどかしくて、歯がゆかった。