番犬男子
あたしは早速教室を出て、西篠先生がいるであろう1階の職員室へ移動した。
ノックしようとしたら、その前に扉がスライドされた。
「それじゃあ、“僕”はこれで失礼します」
「日直ご苦労さま」
男の先生の労りに一礼して職員室から出てきたのは、偽りの姿を装う雪乃だった。
男口調の雪乃だ。
一緒にランチしている昼休みは、いつもの女口調の雪乃だから、なんだか久し振り。
雪乃と目が合い、お互いに軽く微笑む。
「チカちゃんも職員室に用?」
「うん。雪乃は日直だったみたいだね。お疲れ」
挨拶程度の会話をしつつ、あたしは職員室内に踏み入れる。
すれ違いざま、雪乃はあたしに耳打ちした。
「またあとで、たまり場でお話しましょ」
ゾワッ。
ちょ、ちょっと、妖艶すぎない!?
勢いをつけて振り返れば、雪乃はクスクス笑っていた。
ぐぬぬ……。
さては雪乃め、あたしを弄んだな?