番犬男子





あたしは早速教室を出て、西篠先生がいるであろう1階の職員室へ移動した。


ノックしようとしたら、その前に扉がスライドされた。



「それじゃあ、“僕”はこれで失礼します」


「日直ご苦労さま」



男の先生の労りに一礼して職員室から出てきたのは、偽りの姿を装う雪乃だった。



男口調の雪乃だ。


一緒にランチしている昼休みは、いつもの女口調の雪乃だから、なんだか久し振り。



雪乃と目が合い、お互いに軽く微笑む。



「チカちゃんも職員室に用?」


「うん。雪乃は日直だったみたいだね。お疲れ」



挨拶程度の会話をしつつ、あたしは職員室内に踏み入れる。


すれ違いざま、雪乃はあたしに耳打ちした。



「またあとで、たまり場でお話しましょ」



ゾワッ。

ちょ、ちょっと、妖艶すぎない!?


勢いをつけて振り返れば、雪乃はクスクス笑っていた。



ぐぬぬ……。

さては雪乃め、あたしを弄んだな?



< 428 / 613 >

この作品をシェア

pagetop