番犬男子




日本での生活が、もうすぐ終わる。


時というのは、どうしてこう、楽しい時間に限って早く進んでるように感じるのだろう。



夏休みの時より大分伸びた、ゆるくウェーブのかかった栗色の髪を、そっと耳にかけた。



「風都さんはいつまで日本に滞在する予定なの?」


「年末までです」


「そう、あっという間ね。やだ、今からもう別れが辛くて涙もろくなっちゃって……年取ると嫌ぁね」



破顔させながら目尻を拭う西篠先生に、あたしは何も言わずに困ったような笑みを浮かべた。



西篠先生が担任でよかったな。


あたしを特別扱いせずに平等に接してくれた、数少ない先生だった。


それがどれだけ嬉しかったか。




「あと少しだけど、素敵な思い出をたくさん作ってね」


「はいっ」



元気よく返事をして「ありがとうございます」とお辞儀した。


西篠先生にもらい泣きしそうで、慌てて涙腺を引き締めた。



職員室を去った後も、しばらくの間はあたしの瞳は潤んだままだった。




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