番犬男子
□ 強い覚悟
あたしは上下左右の視点を脳内で具現化しながら、司令塔として抗争のど真ん中に立っている。
隅より真ん中のほうが、戦況が見やすい。
その上、あたしに誰かが襲いかかってきてもお互いに逃げ場はなく、闘えるスペースも限られているので、攻撃パターンが絞られてディフェンスしやすいんだ。
あたしは誰よりも冷静でいなければならない。
どこも見落とさず、慌てず、冷然と判断する。
できるだけ、味方が傷を負わないように。
「まだまだ闘いは始まったばかりだぜ?」
「くっそ……」
「これくらいでへばんなよ」
番犬と化した幸汰は、普段のなよなよした様子からは想像できないくらい、獣の如く乱暴に、激しく闘っている。
3人を相手に、戯れるみたいに、隙をことごとく突いていく。
「宝塚雪乃、お前、本当に双雷の幹部か?それにしては弱そうだな」
「ははっ、そうか、君たちにはそう見えるのか」
優美に微笑んだ雪乃に油断した敵を、雪乃はからかいながら最小限の動きで倒していった。
ケンカをしている時でさえ、美しかった。
「ひとつ、教えてあげよう。強さは、目に見えてわかるとは限らないんだよ」