番犬男子
稜のほうも、問題なし。
遊馬のほうはどうだろう。
遊馬が闘っている左斜め前にずらしかけた視界に、突如不良が1人映り込んだ。
あれは、強盗犯だ。
人質作戦をあきらめていなかったらしい強盗犯が、あたしのいる真ん中に鬼気迫る意気で向かってくる。
どうして真ん中には、あたししかいないと思う?
双雷のメンバーが1人もあたしのボディーガードをしないのはね、あたしを信頼してくれてるから。
守ってもらわなくても、あたしは1人で闘える。
あたしは、こちらに伸びる強盗犯の腕の下を機敏にくぐった。
強盗犯を横切る際、脇腹を肘で打る。
背中に回り、肩を掴んで後ろに引いた。
「いっつ……っ」
「ざまあみろ」
あたいは、仰向けに地面に倒れた強盗犯の顔を覗き込んで、んべ、とちょっと舌を出した。
力量では弱いあたしでも、これくらいはできるんだからね。
強盗犯は頭を抑えながら、人質作戦の失敗をようやく受け入れる気になったのか、一旦引き下がった。