番犬男子
「千果、後ろ向け」
今日はいっぱい名前を呼んでくれるね。
嬉しい、もっともっと呼んで。
……と、今は口に出せないのが惜しい。
「やだ」
これだけはまじで無理。ごめん。
せめて手当てするのがお兄ちゃんじゃなく、お兄ちゃんも出て行ってくれれば、渋々後ろを向けただろうさ。
ふと、お兄ちゃんがわざとらしくため息を吐いた。
「雪乃」
「わかったわ」
お兄ちゃんが名前を口にすると、雪乃はそれだけで意図を汲んで、あたしの背後に移動した。
ガシッと肩を掴まれる。
「ゆ、雪乃!?」
い、嫌な予感がする。
雪乃は躊躇なく、肩をグリンッと回した。