番犬男子
あたしの希望を神様は叶えてはくれず、これが運命だったと告げてるみたいに、肩にかかっていたカーディガンが外された。
もうダメだと思った。
抵抗しても、意味がない。
覚悟を、決めなければ。
雪乃に返されたカーディガンは、背中を覆っていた箇所が、赤く染まっていた。
「まだ血が出て……」
お兄ちゃんの声が、途絶えて。
ヒュッ、と誰かの喉が締めつけられた音が、森閑とした部屋によく鳴った。
あぁ、嫌だ。
ナイフで大きく切られた服から、想定していた以上に丸見えになってる背中を、みんなが見てる。
今日裂かれた傷口よりもはるかに痛々しい、“あの日”の傷痕がくっきり焼き付いた、醜い背中を。
あたしの覚悟はどうやらただの見せかけのようで、儚く崩れやすくて、役に立たない。
これだけは避けたかったのにな。
背中の傷痕を見せて、“あの日”の記憶を刺激することだけは、絶対したくなかった。
だって、それは、お兄ちゃんを一番傷つけてしまう方法だから。
この傷痕は、お兄ちゃんを守りきれず、お兄ちゃんに孤独を背負わせてしまった――罰。