番犬男子
『ごめん……っ』
あれは、誰に、何に対しての言葉だったんだろう。
なぜか、目を逸らせなかった。
カーディガンを取られるのをあんなに嫌がっていた理由は、これだったのか。
そう看護室にいる全員が納得していても、再度カーディガンをかけようとするやつはいなかった。
目の前で小さく縮こまる千果を気遣える、優しい余裕は、持ち合わせていなかったんだ。
俺も、雪乃も、稜も、遊馬も、幸汰も……誰も。
「あんなこと、言わなければよかった」
ポツリ、後悔を嘆いた幸汰の呟きを、誰の耳も拾えなった。
それくらい、俺たちは、動揺していた。
頭が真っ白になって、思考が止まって、心臓ごとえぐられる。