番犬男子




それでも、視線はどうしても、千果の背中を離れなかった。

離せなかった。



破けた服の狭間からあらわになってる、千果の背中には、さっきナイフで裂かれ未だに鮮血があふれている、線状の傷が刻まれていた。


その傷も痛そうだが、背中にはもうひとつ、傷“痕”があった。




背中の大部分に残る、皮膚が暗く変色してただれたような、脆そうな傷痕。




千果はずっと、この傷痕を隠していたのか?


俺は……俺たちは、これっぽっちも気づかなかった。



いつだってうるせぇくらいはしゃいで、俺にまとわりついてくる千果に、一生消せない傷があるって、誰が想像できた?




傷を比べるなんて普通してはいけないのかもしれないけれど。


俺の額の傷痕とは比べものにならないくらい、むごい。




ズキンッ、ズキンッ。


痛い。


頭が。

胸が。



ひどく、痛む。




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