番犬男子
モヤがかかる脳裏に、俺自身の声が再生された。
『まるでお前がこの傷をつけたみてぇに、辛そうに……』
あの時本当は、心の奥では、わかってたんじゃねぇのか?
だから、ああ言っちまったんじゃねぇのか?
『そうだよ』
だから、頷かれても何も言えなかったんじゃねぇのか?
『あたしのせいで、負った傷なの』
あの時は、どうして苦しみがこみ上げてくるのか、考えても考えても答えは出なかった。
だってこの額の傷痕は、小学生の頃転んでできたものだと、怪我の経緯を覚えていなかった俺に父さんが説明してくれて、信じて疑わなかったから。
でも。
視界に鮮明に映る、俺の額の傷痕より黒く、残酷に荒んだ傷痕が俺に戒告する。
嘘を信じるな、と。