番犬男子
徐々に、痛みが増していく。
震える手を止めたくても、力が入らない。
「こうなるってわかってたから、見せたくなかったのに」
何を言えばいいかわからずに困惑している俺たちに、千果が辛そうに囁いた。
ごめん。
たった3文字は、口が動いただけで、空を切る。
『ごめん……っ』
――あ、れ?
妙な既視感が、過った。
俺は前にも、千果の背中の傷痕を見て、謝ったことがあったか?
いや、今日初めてこの傷を知って、初めて見て、初めて謝ろうとしたんだ。
この既視感は、ただの幻覚だよな?