番犬男子
『この傷は、消えますか?』
治るか、ではなく、消えるかどうかを聞く母さんに、医者は暗い顔つきで頭を横に振った。
『残念ながら』
『そ、そんな……』
『この傷は、一生消えないでしょう』
妹に、娘に、……女の子に。
あんな凄惨な傷痕が、この先ずっとつきまとう。
それがどれだけ不幸で、残酷で、嘆かわしいことか、母さんの表情を一目見たら汲み取れる。
俺は、取り返しのつかないことをしてしまったんだ。
『あ、お兄ちゃん!』
この場にいる誰よりも早く俺に気がついた千果が、明るく俺を呼ぶ。
父さんと母さんは変わらず俺を冷ややかな視線で貫いていた。
千果、ありがとう、大好きだよ。
そう伝えに来た。
だけど、伝えてもいいのだろうか。