番犬男子
全部全部俺のせいなのに、俺だけ楽になろうとしてないか?
俺だけ、幸せになろうとしてないか?
ありがとう。
そう言って、俺の何倍も苦しんだ千果に許しを請うのか?
大好きだよ。
そう言って、千果は何を思う?
永遠に闘わなければならない傷痕を作った元凶の俺に、さっきみたいに同じ想いを返してくれるわけがない。
伝えられない。
ありがとうも、大好きも。
俺が千果に伝える資格は、ない。
俺は、また、独り。
自分で自分を独りにしたんだ。
何かが壊れる音が、頭の奥で反響していた。
千果、ごめん。
俺のせいで、ごめん。
俺なんかが兄貴で、ごめん。
『ごめん……っ』
唇からその一言が漏れると、突然視界がぼやけ出した。
千果が慌ててベッドから手を伸ばすが、当然届かず、俺はそのまま失神した。