番犬男子
気絶したお兄ちゃんが心配で、『お兄ちゃんのそばにいたい!』とわがままを言い続けた。
結局、妥協案としてお母さんがお兄ちゃんに、お父さんがあたしに付き添うことになった。
1時間も経過しないうちに、お母さんが1人で、ベッドに寝て静かにしていたあたしの病室に戻ってきた。
『お兄ちゃんは?』
寝そべったまま不安げに聞くと、お母さんは気まずそうにあたしから顔を背けた。
なに?
どうしたの?
何かあったの?
……何があったの?
『ねぇ、お母さん!教えてよ!』
『誠一郎は……』
なんでもないんでしょ?
ただ会いに来にくくて、病室に引きこもっちゃったとか、そんなことでしょ?
お願い、そうであって。
いつからだっけ。
あたしのお願いごとが、叶わなくなったのは。
『記憶喪失だって、さっき、お医者さんが』
『え?』
『雪崩のことと、雪崩に巻き込まれて怪我をしたこと。それと、千果、あなたのことを忘れてしまったようなの』
最初は意味がわからなかった。