番犬男子




お兄ちゃんが、あたしを忘れた?


嘘だ。

信じられない。


信じたく、ない。



お兄ちゃんは防衛本能で記憶を失くしたほど、自分を責めて、孤独感をため込んで、心を傷だらけにしていたの?




この哀しさと虚しさをどう扱えばいいのか知る由もなくて、あたしはお母さんとお父さんを睨んだ。


喚きたい衝動に駆られるがまま、ここが病院だとか傷に響くだとか全く注意せずに、嗚咽混じりに黒い感情を吐き出した。




『お母さんとお父さんのせいだ!』



違う。



『あたし、いつも言ってたじゃん!お兄ちゃんに優しくして、って!』


『千果……』


『お母さんとお父さんが優しくしないせいで、お兄ちゃんは寂しい思いをしてたんだ!!』



違う。



『お母さんとお父さんが、お兄ちゃんをちっとも見ないせいで……!』



違う、違う、違う。


お母さんとお父さんのせいじゃない。




『……違う……っ、あたしの、せいだ』





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