番犬男子




あたしは、気づいていた。



両親の愛情があたしに多く与えられていることも、そのことでお兄ちゃんが寂しがっていることも。


お兄ちゃんが無視しているのは、あたしに嫉妬しているから。



きっとあたしがいなければ、お母さんとお父さんは育て方を誤らず、お兄ちゃんを傷つけなかった。




全ての原因は、あたし。




お兄ちゃんに嫌われてる自覚はあった。


それでも、あたしはお兄ちゃんが好きだった。


お兄ちゃんにかまってもらいたくて、『にーちゃ!にーちゃ!』っていつも無邪気に慕っていたんだ。




あたしはなぜか、まだ1歳だった頃はよくお兄ちゃんが本を読んでくれた、あの幼い光景を曖昧にだが覚えている。



それくらい、あの時間が特別だった。


お母さんとおままごとをして遊ぶ時間より、お父さんと近所を散歩する時間より、お兄ちゃんと一緒にいる時間が一番楽しかった。




お兄ちゃんが楽しそうに読書している姿がかっこよくて、あたしは自然と本に親しみ、知識を得ていった。


才能は元からあったのかもしれないけど、眠っていた才能を醒まし、天才と謳われるきっかけをくれたのは、実はお兄ちゃんだったんだよ。



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