番犬男子




あたしは気にせずに、ニッと口角を上げる。



「お兄ちゃん、ありがとう」



突然感謝され、お兄ちゃんは露骨に面食らっていた。



「何のことだ?」


「いろいろだよ、いろいろ!」


「随分アバウトだな」



しょうがないじゃん。


1つ1つ挙げていったら、日が暮れちゃうよ。



嫌々ながら一緒にひとつ屋根の下で過ごせたことも、あたしを強盗犯たちから助けてくれたことも、記憶が喪失していてもあたし自身を信じてくれたことも、あたしに優しく接してくれたことも、記憶を取り戻して愛を返してくれたことも、今日送ってくれたことも……。


他にも、数え出したらキリがないくらい、いっぱい。



全部に「ありがとう」って言ったんだよ。




「いろいろありがとうね!」


「俺のほうこそ、いろいろありがとな」



くしゃくしゃっと、お兄ちゃんの手がぶっきらぼうにあたしの頭を撫でた。



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