番犬男子
「だから?」
「……だ、だから、遠距離恋愛中、浮気とかしたら許さないから!」
両頬に触れている幸汰の両手に、上からあたしの両手を添える。
あれ?今幸汰のほうから、ズキュンッ、って音が聞こえた気がしたけど空耳かな。
奥にずらした瞳に映ったのは、興味なさそうにしつつも心なしか嬉しそうにしている、お兄ちゃんの姿。
「あと、もう1つ」
秘密の話をするみたいに、声量を落とす。
距離を縮めて、幸汰に囁く。
「あたしの代わりに、お兄ちゃんのことを、」
主に女絡みで。
「守ってね、“番犬”」
ふわふわした雰囲気を取っ払ってそう告げたら、幸汰は不敵に笑った。
侍に忠実な番犬の表情に、恐れるどころか安心する。
番犬に任せれば、大丈夫だ。