番犬男子





あれは、俺がまだ、

ピアスを飾る宝石がルビーだとは知らずに、無邪気に思いを馳せていた頃――。







「……寒いな」



何かボソッと独り言を呟いた誠一郎は、こめかみを抑えながら、どこか痛そうにしていた。


珍しく顔色も悪く、目頭をきつく瞑っている。



外は、雨。

ザーザー、ザーザー。醜い残骸を洗い流すように、降り注ぐ。



その雨音が余計に誠一郎を苦しめているようで、幹部室にいる全員が心配していた。



「本当に大丈夫ですか?」


「気分が優れないなら、今日は早めに帰ったらどう?」



幸汰と雪乃に気遣われ、ついに「大丈夫だ」と繕う平静が途絶えた。


誠一郎は渋々立ち上がる。



「……ああ、そうする。悪ぃな」


「気にすんなって!」



俺がわざと明るく笑えば、稜も誠一郎に目を向けた。



「休むことも大事だ」

「そう、だな」



< 584 / 613 >

この作品をシェア

pagetop