番犬男子
あれは、俺がまだ、
ピアスを飾る宝石がルビーだとは知らずに、無邪気に思いを馳せていた頃――。
「……寒いな」
何かボソッと独り言を呟いた誠一郎は、こめかみを抑えながら、どこか痛そうにしていた。
珍しく顔色も悪く、目頭をきつく瞑っている。
外は、雨。
ザーザー、ザーザー。醜い残骸を洗い流すように、降り注ぐ。
その雨音が余計に誠一郎を苦しめているようで、幹部室にいる全員が心配していた。
「本当に大丈夫ですか?」
「気分が優れないなら、今日は早めに帰ったらどう?」
幸汰と雪乃に気遣われ、ついに「大丈夫だ」と繕う平静が途絶えた。
誠一郎は渋々立ち上がる。
「……ああ、そうする。悪ぃな」
「気にすんなって!」
俺がわざと明るく笑えば、稜も誠一郎に目を向けた。
「休むことも大事だ」
「そう、だな」