番犬男子
「もっと綺麗で鮮やかな、情熱の色だよ」
そう言って、笑う。
血の色が滲む左目を、見透かしながら。
穏やかに、ほのかに、笑ってる。
丸メガネ越しに映る、あいつ――風都千果の表情に、つい見惚れてしまった。
さらりと厚い前髪が揺れて、さらにクリアに見えてくる。
前髪が左目をあらわにするより先に、喉が転がった。
……情熱、なんてさ。
んなくそ恥ずかしいこと、よく堂々と言えるよな。
「なんだよ、情熱の色って」
クツクツ。
こぼれる笑い声に反して、表情筋はどこか引きつる。
なんて不格好なんだ。
褐色の右の眼の隣。
真っ赤に染まる、左の眼。
醜くて、憎くて、虚しくて。
どろりと垂れる、流血の匂いがしそうなほど、穢らわしい。
全てを壊した左目の「赤」が、どうしようもなく嫌いだった。
好き“だった”子を傷つけては、自分をも痛めつけた。
こんな色、欲しくなかった。
前髪で隠して、伊達メガネで覆って。
自分からも周りからも遠ざけた。
できるだけ分厚くした壁を、必死に守っていたんだ。
もう見たくない。
誰も見ないでくれ。