番犬男子
きっと、ずっと、恐れていた。
また誰かが傷つくのを。
また、自分が傷つくのを。
左目の色に、秘密に、囚われたくなかった。
だから、だ。
俺が不良の世界に足を踏み入れたのは。
毎日ケンカに明け暮れた。
隠した「赤」をごまかすように、拳を紅く染めたくて。
手が痛くても、どれだけ殺られても、かまわなかった。
だって、どうせ。
心の痛みには敵わないんだから。
自然と強くなって、双雷の幹部になった。
以前よりケンカをしなくなったが、その分周りと線を引き始めた。
こんな俺を憐れむなら、そうしたらいい。不気味に思いたけりゃ、勝手にしろ。それでいいさ。いいんだよ。
そんなやつ、要らない。俺には、必要ないんだ。どうだっていいんだ。
取り繕うやつも、媚びるやつも、怪しいやつも、みんな視界から消した。
見て見ぬふりをした。
何もかもうんざりだった。
こいつ……千果も。
初めは、そうだった。