番犬男子
ずっと忌々しく思っていたこの左目を、こいつは……千果は、当たり前のように褒めてくれるんだな。
情熱とか、綺麗とか。
そんなはずねぇ。ありえない。
そう否定したくても、できない。
嬉しいと、思ってしまったから。
こんな風に涙を流すくらい。
「千果、ありがとな」
ボソッと小さく呟く。
すぐに溶けてしまった言葉を、千果が受け取ることはなかった。
けれど、それでもよかった。
きっと言わなくても、伝わってるだろうから。
「稜も泣くんだね」
「……そりゃ人間だからな」
「そうじゃなくてさ」
じゃあ、なんだよ。
メガネを一旦外し、強めに目尻をこする。
ボヤけていた世界の輪郭が、鮮明になっていく。
千果は数歩先を歩いて、振り返った。
涙のせいだろうか。
それとも、日差しのせいだろうか。
なぜか、千果がとても輝いてるように見えるのは。
眩すぎて、思わず目を細めた。
「人前で泣くようなタイプだとは思わなくって」
そんなの、俺もだ。