番犬男子
心なしか、お母さんの声色はいつもより暗かった。
たぶん、怖いんだろう。
あたしが“彼”と会った時、また“彼”を傷つけてしまうのではないか。
違うよ、お母さん。
あたしは傷を拡げるために来たんじゃない。
傷を治すために、はるばるやって来たんだ。
『千果』
「ん?」
『本当に、会いに行くの?』
何を言うかと思ったら……。
そんなわかりきった質問、聞いてこないでよ。
「会いに行くよ」
1秒の間もなく、はっきり答えた。
『本当に本当にいいの?あっちはあなたのこと……』
「だからこそ、でしょ?」
わざとかぶせて言うと、お母さんは口を閉ざした。