その瞬間、伊崎は思った。

どんなに自分が頑張っても、ひかるは自分の方に向いてくれない。

「今のあなたは、欲しいものを買ってもらえなくて駄々をこねている小さな子供と一緒です」

――ひかるは、自分の手の中に入らない

彼女のその言葉に、伊崎はそう悟ったのだった。


その日も伊崎は、『ミザリー』に現れた。

「――ひかるさん、怒るかな…?」

借金を返済するための条件として、ひかるに会わないと豪に約束させたことを知ったら、彼女は怒るだろうか?

でも、ひかるは自分じゃなくて豪のことを思っている。

「ひかるさんに出会うのがもう少し早かったら、ひかるさんは僕を見てくれたのかな…?」

伊崎は自嘲気味にそう呟くと、『ミザリー』のドアを開けた。
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