8・この手を離さない
「黒田、あそこに置いてあるセメントをこっちに持ってきてくれ」

「はい」

豪は返事をすると、セメントが置いてある場所に歩み寄った。

セメントを抱えて持ちあげて運ぶと、
「どうも、ありがとう」

お礼を言われたので、豪は返事をした。

新しい仕事にもだいぶなれてきた。

借金は返済されたおかげで借金取りに追われることもなくなったうえに、仕事仲間たちとも順調に仲良くしている。

ただ、どうしても心残りがあった。

(ひかるちゃんは、元気だろうか…?)

彼女に何も言わずに自分から立ち去ってから、今日で1ヶ月を迎えた。

ひかるは元気にしているだろうか?

1人で店を経営しながら、毎日を過ごしているだろうか?

そして、好きな人と一緒に幸せになっているだろうか?

豪は頭を横に振って気持ちを追い払うと、仕事に集中した。
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