「――ッ…」

自分の身に何が起こったのか、全くと言っていいほどにわからなかった。

伊崎の唇が、自分の唇と重なっている…?

それはほんの一瞬の出来事で、すぐに離れた。

「――あ、あの…?」

そう声をかけたひかるに、
「すみません」

伊崎は謝った。

「は、はい?」

謝るくらいだったら、何でキスをしてきたのだろうか?

そう思いながら聞き返したら、
「ひかるさんが、あまりにも素敵だったもので」

伊崎は返事をした。

「わ、私が素敵…?」

「ええ、ひかるさんは素敵ですよ」

伊崎は答えて前を向くと、
「キリンですね」

そう言って、キリンのところへと足を向かわせた。

ひかるはその背中をついて行くことしかできなかった。
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