(――素敵って、私が?)

伊崎は、何を思ってそんなことを言っているのだろうか?

特別だとか素敵だとか、伊崎はひかるの何を見てそう思っているのだろう?

(あなた以外の男の人のことを考えていたのに…)

あの頃から、ずっとそうだ。

恋をしたあの時から、ひかるの心の中にいるのはただ1人だけだ。

「――豪くん…」

そう呟いたひかるの声は、伊崎の耳には入っていないようだった。

自分の心の中に常にいるのは、黒田豪ただ1人だけだ。

彼が突然姿を消してしまっても、自分は彼のことをただ思い続けていた。

告白を断っていたのも、豪に恋をしていたからだった。

(私が好きなのは、私が特別だと思っているのは、豪くん1人だけなんだ…)

チクリ…と、ひかるは自分の胸が痛くなったのを感じた。
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