「代金は支払っておきます」

伊崎はテーブルの隅に置いていた伝票を手に持つと、レジの方へと向かって行った。

支払いを済ませ、店を出て行くその後ろ姿を豪は見つめた。

「――これで、いいんだ…」

彼の姿がいなくなると、豪は呟いた。

借金は返すことができた。

ひかるを不幸にすることはなくなった。

子供の頃から好きで、大人になって結ばれたひかるの前を離れるのはつらい。

でも、自分が彼女のそばにいたら間違いなく不幸にさせてしまう。

「――いいんだ、これでいいんだ…」

何度も自分に言い聞かせることで、自分自身を騙そうとした。

自分のせいで、ひかるは不幸にならなくていいんだ…と、豪は何度も言い聞かせた。
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